100万本の海岸松林を守りたい。宮崎市が挑む松枯れとの闘い

【画像】フェニックスカントリークラブに立つ一本松
宮崎市の海岸線には、江戸時代から地域の暮らしを支え、美しい風景を織りなしてきた松林が広がっています。しかしいま、この松林は「松くい虫」による被害の急拡大に直面し、かつてない危機を迎えています。企業版ふるさと納税を活用した緊急プロジェクト「THE GREEN PROTECT MIYAZAKI―宮崎の海岸松林とゴルフコースを守ろう―」について、被害の実態と対策への思いを伺いました。
江戸時代から宮崎市を守ってきた、風光明媚な松林
宮崎市はスポーツが盛んな土地として知られていますが、その舞台となってきた場所のひとつが、江戸時代から植林されてきた海岸松林です。もともとは、風害や潮害から住民の暮らしや農作物を守る防風林・防潮林として先人たちが植栽したもので、南北約28kmにわたって連なり、100万本以上、面積にして810万平方㎡という規模を誇ります。
「宮崎空港に降り立ったときや、フェニックス自然動物園や青島などの観光地に向かう道すがら、必ず目に入る風景がこの松林なのです」と話すのは宮崎市総合政策部都市戦略課の梶原さんです。「リゾート地としての開放感や宮崎市らしさを演出する景観の要でもあり、松林は長年、観光資源としても重要な役割を担ってきました」
その象徴が、日本屈指の名門コースとして知られるフェニックスカントリークラブです。プロゴルフツアー「ダンロップフェニックストーナメント」の開催地としても知られ、コースのレイアウト自体が、この松林を生かして設計されています。ホール間に茂る松林や、グリーン上に立ちはだかる松の木は、プレーヤーに正確なショットを求めるハザードとしても機能しており、コースの戦略性を形づくる重要な要素にもなっています。また、海と松林、きれいに刈り込まれた芝が織りなすコースの景観は、宮崎市の観光を象徴する風景のひとつでもあります。

【画像】松林とゴルフコース、海岸線が織りなす宮崎市の景観
わずか2年で被害は5倍に。深刻化する松枯れの現状
ところが近年、この貴重な松林が「松枯れ」被害によって急速に失われつつあります。その被害量はわずか2年で約5倍に急拡大し、30年ぶりとなる深刻な事態になっているといいます。
被害は北部から徐々に南下し、観光地やサーフスポットとして知られる青島周辺にも広がりつつあります。特に影響が懸念されているのがゴルフ場です。松林のなかにレイアウトされたフェニックスカントリークラブをはじめ、トム・ワトソンゴルフコース、宮崎カントリークラブ、宮崎パブリックゴルフなど周辺のゴルフコースでも松枯れが進行し、ティーショット付近の松林が丸裸になってしまう光景も見られるようになりました。
先述のとおり、松林はゴルフコースにとって単なる背景ではなく、フェアウェイを区切り、プレーヤーに正確性を求めるハザードとしての役割も担ってきました。松が失われて見通しがよくなれば、名門コースならではの戦略性が薄れ、コースの難易度そのものが下がってしまいかねません。景観や競技性だけでなく、防風林・防潮林としての機能そのものも損なわれかねない状況です。
「これまでも国や県、企業、住民とも連携しながら松枯れの防除に取り組んできましたが、それを上回るスピードで被害が拡大しています」と梶原さんは危機感をにじませます。

【画像】松枯れのメカニズム。ステージごとに適切な対策が求められる
松くい虫の正体とは? 松枯れのメカニズム
松枯れ被害をもたらす原因は「松くい虫」とよばれていますが、実際には、体長1mmにも満たない線虫「マツノザイセンチュウ」が松を枯らしています。マツノザイセンチュウ自体は自力で松から松へ移動できないため、「マツノマダラカミキリ」を運び(媒介)役として利用しています。
まず、マツノマダラカミキリが松の若い枝を食べる際にできた傷口から、マツノザイセンチュウが松の体内に侵入します。すると松は水を吸い上げる力を急速に失い、衰弱していきます。弱った松に今度はマツノマダラカミキリが産卵のためにやってきて卵を産みつけ、生まれた幼虫は樹皮の下でさらに成長します。こうした一連のサイクルが、被害を年々拡大させているのです。近年は温暖化の影響でマツノマダラカミキリの活動期間が長期化していることも、被害が急速に拡大している一因として指摘されています。
対策も一筋縄ではいきません。ドローンや地上からの薬剤散布に加え、1本1本手作業で薬剤を注入する「樹幹注入」なども行われています。また、いったん枯れてしまった木は、内部の幼虫が育って成虫として飛び立つ前に、伐倒し、破砕、もしくは焼却処分しなければなりません。地道な作業を継続的に積み重ねていく必要があるのです。
さらに、松林の所有形態が事態を複雑にしています。「国有林、県有林、市有林、そして地域住民の区有林など、所有者が多岐にわたるため、一体的な対策が難しいのが実情です」と梶原さんは説明します。

【画像】被害が深刻なエリアの空撮。6年ほどでほとんどの松が枯れてしまっている
松林を守りたい! 企業版ふるさと納税に託す思い
こうした状況を受け、これを喫緊の課題と位置づけた宮崎市が動き出しました。企業版ふるさと納税を活用し、2025年度から2027年度までの3カ年で、短期集中的に防除対策を進める計画です。
「市が直接手を出せない国有地・県有地を除き、市や地域、民間企業が所有する土地に対して寄付金を充て、補助金を増額することでスピード感をもって対応したいと考えています」と梶原さん。国や県と連携しながらも、企業からの寄付という形で機動的に財源を確保し、集中的に手を打つ狙いがあります。
このプロジェクトを支援することは、単に景観を守るだけにとどまりません。豊かな生態系の保全はもちろん、日本屈指のゴルフ環境を守ること、良質な波を生み出す砂浜を維持しサーフィン環境を守ること、そして県の天然記念物にも指定されるアカウミガメの産卵地を守ることにもつながります。
想定している支援企業層は幅広く、ゴルフを趣味とする中小企業の経営者から、環境保全や防災といった企業の社会的責任(CSR)に関心をもつ企業まで、様々な立場からの参画を呼びかけています。「宮崎市だけが頑張っても解決することはありません。国や県、地域の企業や住民が一緒になって地域全体の課題として取り組む必要があります。さらにその輪を広げるため、企業版ふるさと納税を活用しておりますので、ご寄付を通じて参画していただけるとうれしい」と梶原さんは語ります。

【画像】良質な波で知られる宮崎市の海岸は日本屈指のサーフポイント
未来の宮崎市のために昔の松林を取り戻したい
現在は3カ年計画として進めていますが、3年で被害が一気になくなるわけではありません。「マツノザイセンチュウは一度木のなかに入り込むとなかなか根絶できませんし、樹幹注入も1本ずつ行う地道な作業です。2025年度は本格的な募集期間が実質2カ月ほどしかなく、2026年度がいわば実質的な初年度になります。問題が解決するまで、決して力を緩めるわけにはいきません」と、梶原さんは冷静に見通しを語ります。
「松林は観光の顔であるだけでなく、沿岸に暮らす住民の暮らしや自然を守る防風林・防潮林としての役割も担っています。もしこの松林が失われてしまったら、その影響は計り知れません」そう語る梶原さんの言葉には、松林への強い思い入れがにじみます。「だからこそ、企業版ふるさと納税を通じて、一社でも多くの企業の皆様とともにこの松林を守っていきたい」と梶原さん。江戸時代から受け継がれてきた海岸松林を未来の宮崎市へつなぐための挑戦はこれからも続きます。
語り手

宮崎市総合政策部都市戦略課
梶原康介さん
| 自治体 | 宮崎県宮崎市 |
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