1,000年の草原を次世代へ。熊本県阿蘇市が挑む自然資本保全の最前線

【画像】1,000年以上前から続く阿蘇の野焼きの様子
熊本県阿蘇市では「世界最大級のカルデラ内を満喫し大自然を未来につなぐプロジェクト」を推進しています。このプロジェクトは、環境保全のみにとどまらず、地域の誇りや持続可能な観光、さらには次世代の育成までを見据えた壮大な挑戦です。プロジェクトの核心と今後の展望について、阿蘇市総務部政策総合戦略室長の橋本堅規さんにお話を伺いました。
人の手で守り抜く「半自然」の草原と1,000年続く野焼きの伝統
阿蘇くじゅう国立公園内には、約220㎢に及ぶ広大な草原が広がっています。この景観は、1,000年以上前から続く「野焼き」や放牧といった人々の営みによって維持されてきた「半自然」のものです。しかし現在、担い手の高齢化や畜産農家の減少により、この伝統の継承は深刻な危機に瀕しています。
橋本さん自身も野焼きの現場に立ち、地域住民とともに草原保全に取り組んでおり、草原維持の厳しさと意義についてこう語ります。
「阿蘇の草原は、人の手が入らなければ自然と森に戻ってしまう場所です。毎年2月末から行われる野焼きは、害虫を防ぎ、新たな芽吹きを促すために不可欠な作業です。先人たちが命がけで守り抜いてきたこの伝統的な管理手法こそが、阿蘇の生態系を支える基盤となっています」

【画像】世界最大級のカルデラに広がる阿蘇の草原
世界が認める価値を住民の誇りに。「トリプルクラウン」への挑戦
阿蘇地域はすでに「ユネスコ世界ジオパーク」と「世界農業遺産」に認定されています。そのうえで現在は草原の文化的価値を核とした「世界文化遺産」への登録を目指しています。これら3つの称号を併せもつ「トリプルクラウン」の達成は世界的に見ても極めて稀です。
「世界文化遺産登録を目指すことは、地域の自然や歴史的価値を国際的に認知していただくことに加えて、住民の誇りを高めることにあります。トリプルクラウンという稀有な評価を得ることで、住民ひとりひとりが自分たちの活動の価値を再認識し、次世代へこの景観を継承していく想いを強めてほしいと考えています」と橋本さんは登録に込めた想いを話します。

【画像】いまも活動を続ける阿蘇中岳の火口
火山・草原・水資源の連環を維持する自然資本保全戦略
阿蘇の価値を守るため、市は「火山」「草原」「水資源」の3つの観点から取り組みを進めています。火山については防災・減災を最優先としつつ、ジオツーリズムや防災教育を通じて火山との共生を目指します。草原では、野焼きによる維持管理に加え、放牧の継続を支える「阿蘇あか牛オーナー制度」などにより、草原保全を図っています。さらに「九州の水がめ」として流域500万人を支える水資源については、地下水保全条例を制定し、保全と有効活用に努めています。
「火山が土台となり、人の営みによって維持された草原が雨水を蓄え、地下水を育み、水資源を保護するという一連のサイクルこそが、阿蘇の最大の価値です。これらはすべて相互に関連しており、このサイクルを次世代へつなぐことこそが、私たちの使命であると考えています」と熱く語る橋本さん。

【画像】阿蘇の雄大なカルデラ景観を空から体感できる熱気球
アクティビティとボランティアがつくる関係人口
本プロジェクトでは、景色を眺めるだけの観光から、地域の背景を深く知る「体験型観光」への転換を重視しています。熱気球やパラグライダー、乗馬、eバイクなどのアクティビティに加え、ジオガイドの案内で地域の歴史・文化を学ぶ「ジオツアー」を展開。また、全国から集まる「野焼きボランティア」は、草原維持に不可欠な存在であると同時に、地域の課題をともに分かち合う「関係人口」の創出に大きく寄与しています。
「なぜこの景観が素晴らしいのかというストーリーを提供することで、表層的な感動から一歩踏み込んだ理解へと皆様をご案内したいと考えています。ボランティアやジオガイドとして市外の方が活躍してくださることは地域にとって大きな活力であり、こうした交流が持続可能な地域づくりの鍵となります」と橋本さん。

【画像】阿蘇の草原で放牧されているあか牛。野焼きで維持される草原と畜産が共生する風景
阿蘇市を訪れ、自然と食文化、四季の魅力を体感してほしい
阿蘇市は今後、野焼き作業を企業や個人が安全に体験・参加できるプロジェクトへと発展させる構想を練っています。寄付[AO1.1]企業の社員が実際にフィールドを訪れ、阿蘇の野焼きという「非日常」を体験することで、真に持続可能なパートナーシップを築いていくことを目指しています。
最後に、橋本さんから企業の皆様へのメッセージをいただきました。「阿蘇市を応援していただいた企業の皆様に、この場を借りてお礼を申し上げます。阿蘇の主役は、1,000年続く草原をはじめとする自然景観であり、その自然を守り続けてきた地域の人々です。将来的に野焼き共創プロジェクトが実現した際には、ぜひ現場でその迫力と意義を体感していただきたいと思っています。そして、草原で育つ「あか牛」や春キャベツ、高菜漬けといった豊かな食文化も楽しんでいただけたらうれしいです。自然を愛し、環境保全を志す企業の皆様とともに、阿蘇の四季折々の魅力を分かち合い、未来を創っていける日を心待ちにしております」
語り手

阿蘇市総務部政策総合戦略室長
橋本堅規さん
| 自治体 | 熊本県阿蘇市 |
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