オーバーツーリズム対策で、大芦川をみんなが笑顔になれる場所へ
栃木県鹿沼市を流れる大芦川は、関東一の清流ともい われています。しかし近年、その美しい川でオーバーツーリズムによる深刻な問題が発生しています。今回は 「大芦川創生プロジェクト」に取り組んでいる鹿沼市 総合政策部 地域課題対策課 地域課題対策係 係長 金子隆幸さんにお話を伺いました。
生活環境に対する不安が募る状況に
「大芦川周辺の地区は人口約650人で、地域の半分以上が65歳以上という地域です。そこにお盆の時期になると1日最大5,000人もの川遊びなどの観光客が訪れています。その結果、県道に違法駐車が増え、救急車が通れないこともありました」と語る金子さん。
加えて、ゴミの放置や騒音問題も深刻化しています。特に夜遅くまで続くBBQや川遊びにより、地域住民の生活環境が悪化。割れたガラス瓶が川に放置されるなど、安全面にも悪影響を及ぼしています。このままではこの地域での生活が困難になるのではないかという不安が、住民の間で広がっていました。
きっかけはコロナ禍とアウトドアブーム
大芦川では、10年ほど前から川遊びを楽しむ観光客が徐々に増加傾向にありました。2020年にはその流れが一気に加速し、前年より1万人以上増え、3万人以上が訪れる事態に。この急増の背景には、コロナ禍による 海水浴場の 閉鎖 や、アウトドアブームの到来がありました。
「川で遊んでいる方と話してみると『きれい だから来た』と言うのですが、ゴミを残したまま帰ってしまう方もいらっしゃいます。『自分で自分の遊ぶところを汚くしてしまってるんですよ』と言っても、なかなか伝わりません。来訪者の半数が外国人であり、文化の違いからか、ゴミを持ち帰る習慣がない人も多く、地域住民と観光客の間で価値観の違いが顕在化しました」と頭を抱えていた金子さん。
マナーからルールへ
大芦川周辺では以前から住民による対策会議が開かれていましたが、地域だけでの対応には限界がありました。そこで 市、全庁的なプロジェクトチームを結成。2021年以降、啓発パトロールをはじめ、 監視カメラや 看板の設置、臨時駐車場の運営などに取り組んできました。
「啓発などを主に行ってきましたが、効果が限定的だったため、2024年には条例を施行することに。その結果、川遊び目的の観光客は月1万5000人まで減少。特にBBQを規制したエリアへの観光客が減り、許可エリアへの誘導が進みました。また、条例施行前には毎年1,000kg 以上のゴミが回収されていましたが、施行後は300kgにまで減少。さらに住民アンケートでは、ほとんどの方が夏の観光客に不満を抱えていましたが、施行後には98%の方が良くなったと回答。生活環境の改善が見られました」と条例の成果を語る金子さん。
人的資源不足という課題に、原動力となる企業の参入を
「条例は地域を守るための手段であり、規制と誘導の適切なバランスを取ることが求められます。本来は規制を最小限にし、地域にとって望ましいマナーの良い観光客を受け入れる形が理想です。地域の人と川遊びに来る人がお互いに笑顔でいられる環境づくりを進めていきたいと考えています」と意気込む金子さん。
しかし大芦川周辺は高齢者が多く、対策を続けるための人的資源が不足しているという問題もあります。2024年度からは市内外のボランティアが集い、地域の環境保全活動を支えています。
「今後は、こうした取り組みを継続できる体制を作ること が肝要です。しかし地域の高齢者や市役所職員、個人の力だけでは限界があります。地域と共に課題解決にご協力いただける企業にぜひ参画していただきたいと考えています。市としても、企業版ふるさと納税の人材派遣型をはじめとする様々な形で企業を支援してまいります」と語る金子さん。
オーバーツーリズム対策補助金なども活用可能
本プロジェクトは、観光庁による2024年度「オーバーツーリズムの未然防止・抑制による持続可能な観光推進事業」として採択されました。この事業は、観光公害の解決に向け、市との連携した国の支援対象となり、事業費の2分の1の補助など、企業にとってもメリットのある制度です。
さらに、条例でBBQを許可したエリアにおいて、河川区域でも営利事業を行うことのできる河川占用の特例である「河川のオープン化」に向けた手続も進行中です。
現在、大芦川の一部の河川区域で臨時駐車場を運営していますが、営利事業は禁止されています。しかし、「オープン化」が適用されれば、営利事業も可能となり、企業も参入しやすくなります。
「企業とも連携しながら、地域住民と観光客が共存し、持続可能な観光モデルを構築することを目指しています。少しでも興味をもたれた企業の方は、ご気軽にご相談ください。具体的なご提案をいただければ、観光庁の補助適用に向けた協議も進めさせていただきます。現地案内や地域住民との関係構築に向けた伴走支援も可能ですので、課題解決に向けた連携事業のご提案をお待ちしています!」と金子さんは締めくくってくれました。
語り手
鹿沼市総合政策部地域課題対策課地域課題対策係 係長
金子隆幸さん
自治体 |
栃木県 鹿沼市 |
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